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和歌山地方裁判所 昭和46年(ワ)236号 判決 1976年11月24日

原告 井辺善治

<ほか四名>

右原告五名訴訟代理人弁護士 富永俊造

同 野間友一

同 山崎和友

被告 国

右代表者法務大臣 稲葉修

右訴訟代理人弁護士 岩橋健

右指定代理人 服部勝彦

<ほか一一名>

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告井辺善治に対し金三〇万円、同有限会社鳥幸に対し金八〇万円、同東浦一嘉に対し金二八万円、同下出郁夫に対し金五四万円、同中田美千代に対し金四〇万円および右各金員に対する昭和四六年四月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

(イ) 原告井辺善治はパン、同下出郁夫は漬物、同有限会社鳥幸は鶏肉、同中田美千代は菓子の各販売業を、同東浦一嘉はクリーニング業を、いずれも国道四二号線沿いの和歌山市紀三井寺南前浜六五九番地の五所在の紀三井寺ショッピングセンター(以下、センターという。)内でかつて営み或いは現に営業中のものである。

(ロ) 被告は、右センター西側(表側)を南北に通じる同国道の設置管理者で、いわゆる黒潮国体関連道路として、近畿地方建設局和歌山工事事務所の所管において右国道の毛見トンネル、旭橋間の拡巾工事を起業、設計し、訴外岡崎工業株式会社に右区間中のセンター付近である名草橋橋梁架換関係工事を請負わせるとともに、直接工事現場において右工事の指揮監督をしていたものである。

2  (本件工事の経過およびその違法性)

被告は、本件工事に先立つ昭和四三年九月ころ、センターの経営者である訴外後藤直史との間で、右工事に関し、その間の通行の確保の方法等について協議をし、その席上被告係官は「名草橋の東側に歩行者用専用仮橋を架設するから歩行や営業に支障はない。」旨確答した。ところが、被告は右後藤あるいは原告らに対し、何の前ぶれもなく突如、昭和四五年九月二日本件工事を開始し、センターの北を流れる大門川に架かる旧名草橋の取壊しにかかったため、その砂埃に加えて、大門川上は鉄骨製の仮橋による西側半分の片側通行となったため、自動車が渋滞し、右仮橋上の西側に設置された歩道部分もほとんど通行が不可能となった。更に、名草橋東北に位置する紀三井寺方面からの買物客は右の交通渋滞と工事関係車両による混雑が伴う同国道を二度も横断する危険を犯さなければならず、又、右仮橋の西側の前記歩道部分はその南詰において訴外丸キ食堂の建物の一角が突出していたため、十分にその用をなさなかった。そのため、センターにとってかなりの比重を占めていた紀三井寺方面からの買物客の歩行に危険を生じ、殊に子供連れ或いは自転車による来店が非常に困難になり、九月二日、三日の来客はほとんどなかった。

更に、工事の進行につれてセンター前の道路の東半分(センター側)が工種に応じて数次に亘って掘り起され、工事関係車両の出入りも激しくなったため、センターの入口半分は使用不可能になった。以上のような状況であったため、九月四日後藤は被告に対し前記約束のとおり名草橋の東側に仮人道橋を設置するよう要求したところ、被告はようやく同月九日に至って名草橋の東約三〇メートルの地点にこれを設置したが、既にその時機を失し、センターへの客が他の店へ散った後であった。加えて右仮人道橋は北端で一般道路より約五〇センチメートル高く、巾員はわずか一メートルであり、更に南端からセンターへの取付道路がないため、センターへ来るためには、被告が同時に行なった盛土工事により土砂が小山のようになった所を越えなければならず、しかも、雨が降ればぬかるみになるため満足に歩行の用、殊に自転車或いは乳母車による通行に耐えるものではなかった。同年の一一月一〇日頃に至り、新しく架けられた名草橋の東半分の通行が可能となったが、右は自動車線のみで、翌年二月中旬に至っても東側の歩道部分の通行はできない状態であった。

又、センターの南側方面については、センターとその南にあるレストラン翠遊との境界線の西側で大きな穴をあけて長らくマンホール工事をなし、或いはセンターの前に工事用材料や土砂を置いたため、来店が困難になり、更に南側の交差点は交通渋滞と工事関係車両の往来のためセンター南西の布引方面からの買物客は思うにまかせない状態となった。

3  (被告の責任)

被告は、本件国道の設置管理者として或いは本件道路工事の施行者として、右工事に際し車両の通行確保だけでなく、歩行者が安全に通行できるよう代替道路を確保し、或いは安全施設を設け、又は交通監視員を置く等して道路利用者および付近住民、営業者等に対する損害の発生を最小限度に止め、或いは請負人をして右に沿うよう工事をなさしめる義務があるのに、国体関連道路として早期完成を急ぐあまり、これを怠って工事を強行し、そのため前記のとおり(1)名草橋上の歩行者通行部分、(2)仮人道橋の北詰および南詰、(3)センターの前面通行部分、(4)センター南側にある交差点の西から東への横断歩道部分の各通行に危険、困難を生ぜしめ、その結果付近の住民に迷惑を強いるとともに、紀三井寺、旭橋方面、内原方面、布引方面からのセンターへの来客の減少を余儀なくさせ、原告らに対し営業上多大の損害を与え、そのため原告井辺、同中田、同東浦は閉店のやむなきに至った。右の結果は本件国道の交通事情を工事前から知悉していた被告において十分に予見し得たものであり、しかも経済的にも或いは技術的にも容易に回避し得たものである。しかるに、被告は工事開始後、原告らの再三の要求により、ようやく前記仮人道橋を設置する等の措置を講じたが、右はいずれも不十分なものであり、かかる姑息な方法でその場を糊塗してきた被告の行為はもはや過失というよりは公共性を笠に着た故意による違法行為とも目されるべきものである。

よって、被告には本件国道の設置保存に瑕疵があり、かつ本件工事の注文者として請負人に対する選任、監督を怠ったものと言うべく、民法七〇九条、七一六条および七一七条により原告らの損害を賠償すべき責任がある。

4  (損害)

右被告の違法な行為により原告らの受けた損害は、工事開始の昭和四五年九月から工事が完成した翌年二月までと、売上げの回復に必要とみられる工事完成後六ヶ月間の利益減少分で、その金額は別紙計算書記載のとおりである。

原告らは被告に対し、昭和四六年三月三〇日到達の内容証明郵便をもって、右到達後、三週間以内に右損害額ないしその内金を支払うべき旨催告した。

5  (結論)

よって、被告は原告井辺に対し金三〇万円、同有限会社鳥幸に対し金八〇万円の各損害金を、同東浦に対し金二八万円、同下出に対し金五四万円、同中田に対し金四〇万円の各損害金の内金および右各金額に対する前記催告期限の経過後である昭和四六年四月二二日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(イ)の事実は不知、(ロ)の事実は認める。

2  同2の事実のうち、被告は昭和四五年九月二日旧名草橋の取壊しにかかったこと、被告は仮橋、仮人道橋を設置したこと、原告ら主張のころ、新名草橋の東側部分が通行可能になったことは認めるが、本件工事につき被告に違法があるとの原告らの主張は否認する。同3、4の各事実は否認する。

3(一)(イ) 和歌山市と三重県四日市市を結ぶ本件国道は主要幹線道路でありながら狭小な部分が多く、昭和三八年頃からの交通量の著じるしい増加によって連日交通渋滞となり、特に和歌山市紀三井寺から海南市船尾に至る区間は歩車道兼用であり、うち舗道部分(有効巾員)が二車線六・五メートル、路肩が両側それぞれ五〇センチメートルという状態で、特に交通混雑が激しかった。そのため、被告は、右区間について名草橋等を架け替えるほか、車道を巾員一五メートルの四車線とし、歩道片側二・二五メートル、中央分離帯一メートルの全巾員二〇・五メートルとする道路の拡巾を計画し、昭和四一年から用地買収に着手し、同四二年中には、拡巾部分の両側それぞれ六・五メートルについて盛土工事を完了していた。本件名草橋橋梁工事は施工区間約一五〇メートルであったが、右工事により当然交通混雑を惹き起こすことが予想されたため、被告はこれを防止するため、まず旧名草橋(巾員六・五メートル)の西側に巾員八メートルの仮橋(うち西側二メートルは歩道)を設置し、その前後(南及び北側)に巾員六メートルの仮取付道路をつけたうえで、まず東側部分を完成させ、その後に西側部分を完成させるという方法をとり、これによって、拡巾工事開始後も引き続き上下一車線づつの通行を確保していた。

(ロ) 従って、原告主張のように大門川上が西側半分の片側通行となったという事実はない。そのうえ、右仮取付道路の有効巾員と旧国道とのそれとの差は僅か五〇センチメートルで大差なく、しかも、橋上については、旧名草橋は歩車道の区別がなく東側外側線と欄干の巾は約四〇センチメートルで、車両による歩行者の側方通過は非常に危険な状態であったが、仮橋は二メートルの歩道部分を取り付けていて、従前以上に歩行者の安全を確保していた。又、紀三井寺方面からの顧客については、仮橋の東側部分に旧名草橋より狭いながらも外側線と欄干との間に約三〇センチメートルの間隔が確保されていたため、歩行者は従前通り通行していたし、又一部の者は少し遠まわりではあるが一たん道路を横断し、より安全な仮橋の歩道部分を通行して買物に来ていたし、他に本件工事現場を通らずにセンターの南側に出る方法もあった。しかし、いずれにしてもこのような状態が続いたのは昭和四五年九月二日から後記仮人道橋の設置された同月九日までの僅か八日間であった。

(二) 尚、被告は当初旧国道の西側に丸キ食堂のブロック塀及び台所があるため、この方向に仮取付道路及び仮橋を設置することは困難であると考え、名草橋の東側に仮橋及び仮人道橋を架設し、旧国道の西側から工事を施工する計画であったが、この方法によると年末から年始にかけてセンター前面において工事が施工されることになり、原告らに損害を与えることが予想されたので、当初の計画を変更して前述のような工事方法を取ったものである。その結果センター前面の工事部分は昭和四五年一一月中旬には工事を完了することができたものである。

(三) 被告係官及び訴外会社の工事担当員は工事の着手前の昭和四五年七月下旬から八月上旬にかけて前記後藤を含む地元住民一〇数名に個別に工事の説明をしてその了解を取り付けたうえで、同月一一日仮取付道路及び仮橋の仮設工事に着手し、同二〇日仮橋、同三一日仮取付道路の完成をみてから、九月一日旧国道の通行を禁止するとともに、仮取付道路の通行を開始して翌二日旧名草橋の撤去を開始した。橋梁の架け替え工事については我国で最高の工法と目される無震動、無騒音のN・N式工法を採用した。又、旧名草橋の撤去に際しては、工事による砂礫の飛散を防止するため仮橋東側に高さ四メートルの横幕を張る等して危険の防止に努めた。

(四) 翌九月三日、後藤より歩行者のために仮橋南詰にある丸キ食堂の台所とブロック塀を一部撤去し、通行しやすくして欲しい旨の要望があったため、即日現地調査のうえ承諾し、所有者に補償金を支払うなどして、一〇月一日これを除去した。

(五) さらに、翌日の九月四日、後藤より国道の東側(紀三井寺方面)に居住する顧客の便を図るため、名草橋の東側に歩行者用専用道路並びに仮人道橋を設けるよう要望があったため、被告係官らは即日場所の選定を行ない、翌日右工事に着手し、訴外岩崎某の車庫を移転し、小屋の一部を除去して貰うなどして同月八日それらを完成、翌九日から通行を開始するに至り、前記歩行者の不便も前記のとおり僅か八日間で解消された。なお、同月一五日後藤及び原告らから仮人道橋北詰の高低差及び仮人道のぬかるみの緩和の要望が出たが、これも翌一六日に補修した。右高低差は約二〇センチメートル程度であり、又この付近の土地は砂質であってぬかるみになるということはなかったが、前同様誠意をもって要望に答えたものである。

(六) センター前面の工事については、予めセンターの都合を聞いて、その休業日である昭和四五年一〇月二八日、一日で路床路盤の工事を終了した。更に被告の道路工事とは直接の関わりのない電々公社や和歌山市の地下ケーブル線や上水道埋設工事についても、道路管理者の立場から付近住民に対する配慮をなし、センターへの車の出入りが可能であるように半分づつ施工させることとした。

右のような経過を経て、一一月一一日新国道の東側半分の工事が完成したので同部分の通行を開始し、同時に西側部分の工事に着手し、翌年二月二〇日当初の予定通り工事を完了した。

(七) 交通監視員については、これを置くことについて何らの法的義務もなかったが、工事関係車両やセンターへ出入する車両により、歩行者に危険が及ぶのを防止するため必要に応じて自発的に交通監視員を置いていた。

以上のとおり、被告は、本件工事に際し、付近住民或いは原告ら営業者等に対する損害の発生を防ぐべく万全の措置を講じてきたものである。

(八) 原告らのいうセンター前の混雑は主としてセンターの関係者の車両が将来道路となるべき部分を塞いでいたもので、右部分に私人が設置した立看板などと相俟って普段においても歩行者の通行は困難であった。なお、センター南側の交差点の横断歩道については、本件工事と関係なく、何らの影響もなかった。

(九) 原告ら主張のように、右工事に際して一部不完全な部分があり、或いは多少の損害が発生したとしても、右損害は軽微であり、しかも、センターは、前記盛土工事がなされた以後の昭和四三年一二月に建設されたものであり、従ってこれ以後に入店した原告らは当然本件工事を予測し、それによって付近一帯が発展することを予期して入店したものである。他方、本件工事は前記交通事情の変化発展に伴なう必要不可欠なものであり、法律の規定に則った適法な公共事業であることに鑑みるとき、原告らの多少の不便或いは損害は社会生活上当然受忍すべき程度のものである。

4  本件工事に際しての被告の訴外会社に対する注文、指図或いは監督につき、被告には何らの過失もなかった。又、同会社は自らその事業の主体として独立の立場において本件工事を請負い、施行したものであって、被告の使用人としてしたものでないから民法七一六条の適用はなく、更に、同法七一七条の適用についても、同条は工作物が本来有すべき設備又は構造に瑕疵があり、そのために損害が発生した場合を規定するものと解せられるところ、本件道路には右のような瑕疵は存せず、又仮に原告らに損害が発生したとしても、右は本件道路の設置又は保存に瑕疵があったことに基づく損害とは言い難い。

三  抗弁

仮に原告らに損害が発生し、被告に右損害を賠償すべき義務があるとしても、前記のとおり原告らにとって本件工事が予期されたものであり、原告らはこれに対応すべき企業努力をなすべきであったにも拘らずこれを怠ったものであるから、右損害の発生ないし拡大につき原告らにも過失があったというべきで、損害額を定めるについて右過失を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一  原告主張の請求原因1(ロ)の事実及び被告が昭和四五年九月二日旧名草橋の取壊しにかかり、その前に、同橋の西側に仮橋(仮取付道路を含む)を、同月九日ごろ仮人道橋(仮人道を含む)を設置したこと、同年一一月一〇日ごろ新名草橋の東側部分が通行可能になったことは当事者間に争いはない。

二  そこで本件工事の経過について検討する。

≪証拠省略≫によれば、次の事実が認められる。

本件国道の拡巾工事前の状況と同工事を必要とした事情、及びその用地買収から旧橋撤去までの準備とその工事は、被告の請求原因に対する認否3(一)の(イ)と(三)に記載したとおりであること、

一方、センターは昭和四三年一二月末頃完成したが、その経営者の後藤は右建築前より前記拡巾工事がなされることを予知し、原告らが入店する以前に単独で前記工事事務所に赴き本件工事の内容について説明を受け、その際センターへの来客の通行の安全確保について申入れを行うとともに、歩道の仮設計画について尋ねたところ、同事務所所長は名草橋の東側に歩行者専用の巾一・五メートルの木製の橋を設置する旨回答した。しかし、その後、被告が工事の手順について検討したところ、旧国道の東側(センター側)に仮取付道路並びに仮橋を設け、西側部分の工事を先に行うと、東側部分の工事を行う時期が年末年始にかかるため、センターへの右時期の客足への影響を考慮すると、工事の手順を逆にした方が妥当であると考え、前述のとおり東側部分から工事を始めることにしたこと、

ところが、右撤去工事が始まるや、名草橋北東側方面からの客の来店に支障を生じ、九月二日、三日の来客が半減したため原告らから苦情を訴えられた後藤は、同人らを代表して前記工事事務所長に対し早急に対策を講ずべきことを要請したところ、即日同所長は名草橋の東側に仮人道橋を設置する旨約し、即座に場所の選定をしたうえ、右仮人道橋からセンターに至る通路として訴外岩崎某の所有地を借り上げ、翌日から工事に着工し、九月九日仮人道橋が完成し、これによって紀三井寺方面からの歩行者の困難はほとんど解消されるに至った。又、前記仮橋南詰については、丸キ食堂の貸家の台所とブロック塀が通行の障害になるとの苦情があったので、被告は同食堂経営者と交渉し、障害となっていた部分を除去し、除去するまでの間も、同食堂から、その敷地内を通行することの許可を得ていた。

その後、一〇月一五日に至りセンター側の要求により入店者の代表、右後藤らと被告係官及び訴外会社の工事担当者らとが協議し、その席上原告らは一日も早い工事の完成及び仮人道橋の北詰の約三〇センチメートルの段差と、仮人道橋からセンターに至る通路のぬかるみの解消の要望がなされ、これに対し被告は、工期の短縮は条例による工事時間の制限等により応じられないとしたが、段差とぬかるみについては、歩行者の便を考慮して翌日コンクリートを打ち込み或いは歩み板を並べるなどしてこれを解消した。その後、センターからの苦情はなされなかった。

その間、東側部分の道路工事及び新名草橋の架橋工事がなされていたが、右工事に際しては、被告においてセンター用の駐車場を確保するとともに、管渠及び街渠工事についてはセンターの前面において行なわれることとなるので、客の出入りに与える影響を少なくするように、三回に分けて工事を行うことによってセンターの前全面において工事がなされることを回避し、又路盤、路床工事についてはセンターの休業日に一気にその工事を完了した。右工事はいずれも前記買収に係る拡巾予定地域内においてなされたものである。右の期間中センター地内の道路拡巾予定地に至る部分において来客の歩行の困難が見られたが、右は主として道路拡巾予定地が駐車場として使用することができなくなったことに加え、センターの敷地が狭少であり、そのため同センターへの出入りの車や来客の自転車によって混雑したためと、翠遊との境界付近にあった翠遊の大きな広告看板などが更に通行を困難にしていたことによるものである。

なお、センター南側の交差点において多少工事による渋滞がみられたが、その横断歩道部分は工事の対象とはなっていなかった。

又、本件工事の全期間を通じ、訴外会社は和歌山東警察署との協議のとおり必要に応じて交通整理員を配置した。

以上のような経過を経て、一一月二一日に至って旧国道よりも一メートル広い東側部分(センター側)の工事が完了し、右部分について通行が開始されたためセンター前面は従前通りの歩行が可能となり、その後西側部分の工事を施行して翌年二月ほぼ当初の計画通り全区域に亘って工事が完了し、通行が開始された。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

三  ところで、本件のような交通の頻繁な幹線道路で、本件のような必要に迫られて拡巾工事を施行する場合、被告としては、その利用者の通行の確保と安全のため、技術的にも、経済的にも相当と認められる措置をとらなければならないのはもちろんであるけれども、その措置によっても、なおかつ、工事に伴い利用者に利用上の不便や、その結果として不利益を与えることがあったとしても、その期間程度等が、社会常識に照らし、已むを得ないと認められる限度内にとどまるかぎり、被告はその責任を負わないものと解するところ、前記諸事実からすると、被告は本件工事開始前後を通じ、自らまたは原告らの要望に応じ、右にいう相当の措置をとっており、他方、工事に伴い原告らの受けた不便や不利益も、いまだ右にいう限度を超えないものと認められるから、被告は、利用者である原告らに対し、その責任を負わないものといわねばならない。

よって、右と異なり、被告が原告らの受けた損害を賠償する義務のあることを前提とする原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤原達雄 裁判官 大月妙子 梅津和宏)

<以下省略>

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